理学療法士がまとめたノート

統計学備忘録(R言語のメモ)

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なぜt検定を繰り返してはいけないのか?

なぜt検定を繰り返してはいけないのか
投稿日2017.2.24

修正日2017.7.9


sample は「石村卓夫;分散分析のはなし,東京図書,1992,p137」

A<-c(12,14,16)
B<-c(13,15,17)
C<-c(15,17,19)
D<-c(17,19,21)

x<-c(rep("A",3),rep("B",3),rep("C",3),rep("D",3))
y<-c(A,B,C,D)
stripchart(y~x,vertical=T,pch=1,cex=2,cex.axis=1.5)

f:id:yoshida931:20170709103144p:plain

視覚的にはAD間、BD間には差があるように見えます

以下、重要な前提です
Aの母平均をμa
Bの母平均をμb
Cの母平均をμc
Dの母平均をμd とします
「μa=μb=μc=μd」を検定する場合にt検定を繰り返してはいけないのです.

 

一元配置分散分析

oneway.test(y~x,var.equal = T)
#F = 3.6875, num df = 3, denom df = 8, p-value = 0.06214
#有意水準5%で差が「ない」という結果になりました

#全ての群の母分散は等しいと仮定してt検定を繰り返してみます
AB<- t.test ( A , B , paired=FALSE , var.equal=T , conf.level=0.95 )
AC<- t.test ( A , C , paired=FALSE , var.equal=T , conf.level=0.95 )
AD<- t.test ( A , D , paired=FALSE , var.equal=T , conf.level=0.95 )
BC<- t.test ( B , C , paired=FALSE , var.equal=T , conf.level=0.95 )
BD<- t.test ( B , D , paired=FALSE , var.equal=T , conf.level=0.95 )
CD<- t.test ( C , D , paired=FALSE , var.equal=T , conf.level=0.95 )

#それぞれの検定結果のP値のみを取り出してみます
str ( AB [ [3] ] ) ; str ( AC [ [3] ] ) ; str ( AD [ [3] ] ) ; str ( BC [ [3] ] ) ; str ( BD [ [3] ] ) ; str ( CD [ [3] ] )

AB 0.573
AC 0.14
AD 0.0376
BC 0.288
BD 0.0705
CD 0.288

やはりAD間には有意水準5%で「差がある」という結果になりました.しかし分散分析では差がないという結果でした.

分散分析の帰無仮説
有意水準0.5において「μa=μb=μc=μd」である.

t検定の帰無仮説
有意水準0.5において「μa=μb」かつ「μa =μc」かつ「μa =μd」かつ「μb=μc」かつ「μb=μd」かつ「μc=μd」である.言いかえれば、有意水準0.5で「6組全てに差が見られない」となり、対立仮説は「少なくとも一組には差がある」となります.


 「μa=μb」かつ「μa =μc」かつ「μa =μd」かつ「μb=μc」かつ「μb=μd」かつ「μc=μd」となる確率は ( 1 - 0.05 ) ^6 です.したがって、有意水準0.5と設定した検定で少なくとも一組には差がある確率が 1 - ( 1 - 0.05 ) ^6 = 0.2649081 となり、有意水準26.5%の検定となってしまいます.つまりαエラーの危険性が高くなるのです.このような矛盾を解消するための手法が多重比較です.

 

多重比較(Tukey)を行ってみます

TukeyHSD ( aov (y ~ x) , ordered = TRUE )
Tukey multiple comparisons of means
95% family-wise confidence level
factor levels have been ordered

Fit: aov(formula = y ~ x)

$x
    diff      lwr    upr          p adj
B-A   1   -4.2294189    6.229419   0.9252929
C-A   3   -2.2294189    8.229419   0.3245304
D-A   5   -0.2294189  10.229419   0.0609499
C-B   2   -3.2294189    7.229419   0.6297636
D-B   4   -1.2294189    9.229419   0.1441838
D-C   2   -3.2294189    7.229419   0.6297636

有意水準0.05ではどのペアにも差はありませんでした.

 

T検定でよい?・・・研究目的が重要です

A、B、Cを比較する場合は、単純に多重比較と決めつけてしまうのではなく、求めようとすることを明確にすることが大切です。例えば、「A>BかつA>B」を証明するための研究計画であれば、AvsBとAvsBのt検定を行い、両方ともに有意差が言えればよいということになります。

参考 http://www.gen-info.osaka-u.ac.jp/MEPHAS/ave.html
2種類の既存薬AとBを組み合わせた配合薬Cの配合効果を評価する場合.この場合、既存薬A,Bのそれぞれの効果と配合薬Cの効果を比較します.ここで いいたいのはCが既存薬A、Bの両方よりも効果があるということです.「CがAよ りも優れている、かつCがBよりも優れている」ということを 示します.つまり帰無仮説はC=AかつC=Bとなり、A=B=Cとは異なります.このような場合には2標本t検定を繰り返して用いるほうが適切だと考えられます.